マウスピース矯正は、ブラケットやワイヤーを使用せず、透明なプラスチック製の装置を段階的に装着し、歯並びを整えていく矯正方法です。ワイヤーを使わないために目立ちにくく、周囲の人に気付かれずに治療を進めることができます。食事や歯磨きが普段通りできることもメリットです。デジタル技術の進化や健康意識の高まりもあり、近年急激に普及しています。
SNSでの経過報告の投稿も多く、若い方を中心に「マウスピースで矯正したい」と来院される方が増えています。誰でもマウスピース矯正ができるとお考えの方もいますが、結論からお伝えすると、マウスピース矯正には向いてる方、向いていない方がいます。
それは歯並びや顎の状態等の医学的な条件だけではなく、装着時間を継続して守れるかといった生活習慣や自己管理能力も治療結果に大きく影響します。
「思うように歯が動かなかった」「治療期間が大幅に延びてしまった」「モチベーションが続かず途中で挫折してしまった」といったケースの多くは、「適応を十分に理解しないまま治療を始めたこと」が原因です。
これらのことをふまえて、マウスピース矯正の向く人、不向きな人について深堀りしていきましょう。
「私はマウスピース矯正に合っているのか?」を判断するための基準を知りたい方は、ぜひ最後までご覧ください。
マウスピース矯正が向かない人に見られる2つの共通点
マウスピース矯正が向かない人には、大きく分けて2つの共通点があります。
一つは、歯並びや顎の状態が治療の適用範囲を超えている医学的な場合です。
もう一つは、治療のルールを守る自己管理が難しく、計画通りに治療を進められない性格や生活習慣の場合です。
どちらか一方でも当てはまるのであれば、マウスピース矯正は不向きとなり、期待した効果が得られない可能性があります。
歯並びや顎の状態が医学的にマウスピース矯正の適用が難しい症例。
まず、マウスピース矯正は万能ではなく、歯や顎の状態によっては適用が難しい場合があります。
特に、歯を大きく移動させる必要がある症例や、口腔内に矯正を妨げる要因がある症例では、マウスピース矯正が不向きな人と判断されることがあります。
「歯を大きく動かす必要がある重度の不正咬合」
マウスピース矯正は、歯を少しずつ動かしていく治療法のため、抜歯を伴うような歯の大幅な移動や、歯の根(歯根)を大きく動かす必要がある重度の不正咬合には限界があります。
例えば、著しく歯が前方に突き出ている重度の出っ歯(上顎前突)や、下の歯が上の歯より大きく前に出ている受け口(下顎前突)、奥歯で噛んでも前歯が噛み合わない開咬などは、対応が難しい症例です。これらのケースでは、より強い力で精密なコントロールが可能なワイヤー矯正が適している場合があります。
「抜歯しないと歯が並びきらないほどスペースが不足している」
歯が重なり合って生えている叢生が著しく、歯をきれいに並べるためのスペースが顎に全く足りない場合、抜歯が必要になることがあります。
マウスピース矯正でも抜歯を伴う治療は可能ですが、抜歯によってできた大きなスペースを閉じるような歯の移動は、ワイヤー矯正の方が得意です。特に奥歯を大きく後方に動かす必要がある症例などでは、マウスピース矯正単独での治療は難しく、ワイヤー矯正との併用や、そもそもワイヤー矯正を選択することが推奨されます。
「顎の骨格そのものにズレや変形が見られる」
出っ歯や受け口、顔の歪みといった問題の原因が、歯の傾きだけでなく顎の骨格そのものの大きさや位置のズレにある場合、マウスピース矯正だけで改善することはできません。
なぜなら、矯正治療はあくまで歯を動かす治療であり、顎の骨を動かしたり形を変えたりすることは不可能だからです。
骨格性の不正咬合と診断された場合は、歯を並べる矯正治療に加えて、顎の骨の位置を修正する外科手術(外科的矯正治療)を併用する必要があります。
根本的な改善を目指すには、専門の医療機関での診断が不可欠です。
「重度の歯周病があり、歯を支える土台が不安定になっている」
矯正治療は歯を支える歯槽骨や歯茎が健康な状態であることが大前提です。
重度の歯周病にかかっていると歯を支える骨が溶けて歯がグラグラしている状態のためそこに矯正力を加えると歯が抜け落ちてしまう危険性があります。
そのためまずは歯周病の治療を優先し歯茎の状態が安定してからでなければ矯正治療を開始することはできません。
歯周病は自覚症状がないまま進行することもあるため矯正を始める前には必ず精密な検査を受け口腔内の健康状態を確認する必要があります。
「矯正の妨げになるインプラントやブリッジが複数入っている」
インプラントは顎の骨と直接結合しているため、矯正治療で動かすことはできません。
また、ブリッジは複数の歯を連結しているため、個々の歯を独立して動かすことが困難です。
これらの人工歯が口腔内に複数存在する場合、歯を動かす際の妨げとなり、治療計画に大きな制約が生まれます。
動かせないインプラントやブリッジを避けながら他の歯を動かすことになるため、理想的な歯並びを実現するのが難しくなるのです。
場合によっては、矯正後にブリッジや被せ物をやり直すことを前提に治療計画を立てることもあります。
「歯茎の中に埋まった歯(埋伏歯)を動かす必要がある」
親知らずや犬歯などに多く見られる、顎の骨の中や歯茎の下に埋まったまま生えてこない歯を「埋伏歯」と呼びます。
この埋伏歯を正しい位置まで引っ張り出してくる治療には、非常に強い力と精密なコントロールが必要です。
マウスピース矯正は、歯の表面を覆う装置であるため、歯茎の中に埋まっている歯に直接力をかけることができません。
そのため、埋伏歯の牽引が必要なケースでは、一般的に歯茎を小さく切開し、歯に付けた装置をワイヤーで引っ張り出すワイヤー矯正が適用されます。
【性格・生活習慣】自己管理が原因で治療の失敗リスクが高い症例
マウスピース矯正の完成度は、患者自身の協力度に大きく左右されます。
装置の取り外しが自分でできる反面、ルールを守れないと計画通りに歯が動かず、治療が失敗に終わる可能性があります。
そのため、性格や生活習慣によってはマウスピース矯正が向いてない場合があります。
ここでは、自己管理が原因で治療の失敗リスクが高まる具体的な症例を紹介します。
1日20時間以上の装着時間を守るのが難しい
マウスピース矯正は、1日20時間から22時間以上の装着が推奨されています。
この時間を下回ると、歯にかかる力が不十分になり、計画通りに歯が動きません。
その結果、次のステップのマウスピースが合わなくなったり、治療期間が大幅に延長したり、最悪の場合は治療計画の再作成が必要になることもあります。
仕事やプライベートでマウスピースを外す時間が長くなりがちな人や、つい装着を忘れてしまうなど、決められたルールを継続するのが苦手な人は、治療効果を十分に得られない可能性があります。
食事や間食の回数が多く、マウスピースを外しがちになる
マウスピースは、食事や間食の際には必ず取り外す必要があります。
そのため、1日の食事回数や間食の頻度が多い人は、その都度マウスピースの着脱と管理が必要になり、手間が増えてしまいます。
特に、仕事の合間につまみ食いをしたり、だらだらと飲み物を飲んだりする習慣がある場合、マウスピースを外している時間が長くなり、1日の装着時間を確保するのが難しくなりがちです。
このような生活習慣は、装着時間の不足に直結し、治療の進行を妨げる一因となります。
食後の歯磨きや装置の洗浄を面倒に感じてしまう
マウスピースを装着する前には、必ず歯磨きをする必要があります。
食べかすが残ったまま装着すると、マウスピースと歯の間に細菌が繁殖し、虫歯や歯周病のリスクが格段に高まります。
また、マウスピース自体も毎日洗浄し、清潔に保たなければなりません。
食後の歯磨きや装置の手入れを面倒に感じ、怠ってしまう人は、口腔内の衛生状態が悪化し、歯並び以外のトラブルを引き起こす可能性があります。
徹底した衛生管理を継続する自信がない場合は、慎重に検討する必要があります。
喫煙の習慣があり、装置の着色や口腔衛生を保てない
喫煙はマウスピース矯正に様々な悪影響を及ぼします。
タバコに含まれるタールは、透明なマウスピースを黄ばませるため、目立たないという最大のメリットが損なわれます。
マウスピースを装着したまま喫煙すると、有害物質が装置内に滞留し、歯や歯茎の健康を害するリスクも高まります。
さらに、喫煙は血行を阻害して歯周病を悪化させやすく、歯の動きそのものを妨げる可能性も指摘されています。
治療の成功と口腔衛生のためには、禁煙するか、本数を大幅に減らす努力が求められます。
飲み会や外食が多く、装着時間が確保しにくい
頻繁な飲み会や長時間の外食は、マウスピース矯正の継続を難しくする要因の一つです。
食事中はマウスピースを外すため、コース料理や飲み会のように長時間に及ぶ場合、装着時間を大幅に下回ってしまいます。
また、外食先で食後に歯を磨く環境が整っていないことも多く、衛生管理のハードルが上がります。
付き合いなどで外食の機会を断れないことが多い生活スタイルの人は、自己管理を徹底する強い意志がなければ、計画通りに治療を進めることが難しくなるかもしれません。
マウスピース矯正で理想の歯並びを目指せる人の特徴
一方で、マウスピース矯正の特性を理解し、そのメリットを最大限に活かせる人もいます。
歯並びの状態が適応範囲内であることはもちろん、治療に対する本人の意識やライフスタイルも重要な要素です。
ここでは、マウスピース矯正で満足のいく結果を得やすい、向いている人の特徴について解説します。
当てはまる項目が多いほど、治療が成功する可能性が高いと言えるでしょう。
軽度から中程度の歯並びの乱れを改善したい人
マウスピース矯正が最も効果を発揮するのは、軽度から中程度の不正咬合です。
例えば、歯と歯の間に隙間がある「すきっ歯(空隙歯列)」、歯が少しだけガタガタに生えている「軽度の叢生」、一度矯正した後に少しだけ歯が戻ってしまった「後戻り」などの症例です。
これらのように、歯を大きく動かす必要がなく、比較的単純な移動で改善できる歯並びには、マウスピース矯正が非常に適しています。
自分の歯並びがどの程度の不正咬合なのかは、歯科医師による精密な診断が必要です。
治療のルールを計画通りに守れる自己管理能力が高い人
マウスピース矯正は、患者自身の協力が不可欠な治療法です。
歯科医師から指示された装着時間や、マウスピースの交換時期、定期的な通院などをきちんと守れる自己管理能力が求められます。
スマートフォンのアプリで装着時間を記録したり、スケジュール管理を徹底したりと、目標達成のために計画的に行動できる人は、マウスピース矯正に向いています。
責任感を持って治療のルールをコツコツと守れる人であれば、治療計画通りに歯が動き、満足のいく結果を得やすいです。
矯正装置が目立つことに強い抵抗がある人
マウスピース矯正の最大のメリットは、装置が薄く透明で目立たない点です。
そのため、接客業や営業職など、人と接する機会が多い仕事をしている人や、結婚式などの大切なイベントを控えている人など、矯正中の見た目を気にする人には最適な選択肢となります。
従来のワイヤー矯正のように金属の装置が口元に見えることに抵抗があり、これまで矯正治療をためらっていた人でも、マウスピース矯正なら周囲に気づかれにくく、ストレスなく治療を続けられます。
金属アレルギーの心配がなく矯正治療を受けたい人
従来のワイヤー矯正では、ブラケットやワイヤーに金属が使用されているため、金属アレルギーを持つ人はアレルギー反応が出てしまうリスクがありました。
一方、マウスピース矯正で用いられる装置は、主に医療用のポリウレタンなどのプラスチックでできています。そのため、金属アレルギーの心配がなく、アレルギーが原因で矯正治療を諦めていた人でも安心して治療を受けることが可能です。ニッケルやクロムといった金属に敏感な人にとって、マウスピース矯正は安全な選択肢の一つです。
ここまでの説明から、もしかしたら自分はマウスピース矯正に向いていないかもしれない、と感じた人もいるかもしれません。
しかし、それで歯並びの改善を諦める必要はありません。
矯正治療には様々な方法があり、マウスピース矯正が最適でなかったとしても、別の方法で理想の歯並びを目指すことが可能です。
ここでは、マウスピース矯正以外の選択肢について解説します。
幅広い症例に対応可能なワイヤー矯正を検討する
ワイヤー矯正は、歯の表面にブラケットという装置を取り付け、そこにワイヤーを通して力をかける、最も歴史が長く実績のある治療法です。
マウスピース矯正では対応が難しいとされた、抜歯が必要な重度の不正咬合や骨格性の問題など、ほぼ全ての症例に対応できる適応範囲の広さが最大の強みです。
歯を動かす力が強く、確実性の高い治療結果が期待できます。
近年では、ブラケットが白や透明で目立ちにくい審美ブラケットや、歯の裏側に装置を着ける舌側矯正(リンガル矯正)など、見た目に配慮した選択肢も増えています。
気になる一部分だけを整える部分矯正も選択肢に入れる
全体の噛み合わせに大きな問題はなく、前歯の隙間や少しのガタつきなど、見た目が気になる一部分だけを治したいという場合には、部分矯正が適しています。
治療対象を限定するため、全ての歯を動かす全体矯正に比べて治療期間が短く、費用も抑えられるのがメリットです。
部分矯正は、マウスピース矯正でもワイヤー矯正でも行うことが可能です。
ただし、部分的な治療によって全体の噛み合わせのバランスが崩れる可能性がある場合は適用できないため、歯科医師による慎重な診断が求められます。
外科手術を併用した矯正治療で根本から改善する
歯並びの問題が、顎の骨の大きさや位置のズレといった骨格的な要因に起因する場合、矯正治療だけでは根本的な解決が難しいことがあります。
このようなケースでは、顎の骨の形や位置を整える外科手術と、歯並びを整える矯正治療を組み合わせた「外科的矯正治療」が選択肢となります。
手術を伴うため体への負担は大きくなりますが、噛み合わせの機能を劇的に改善し、口元の見た目も大きく変えることが可能です。
重度の受け口や出っ歯など、特定の条件を満たす場合は保険適用で治療を受けられます。
まずは専門の歯科医師に相談して最適な方法を見つけることが大切です。
「向いていない人」の特徴は、あくまで一般的な目安です。
矯正技術は日々進歩しており、以前はマウスピース矯正が難しいとされていた症例でも、歯科医師の技術や経験、補助的な装置の併用によって対応可能になっているケースもあります。
自己判断で「自分は向いていない」と決めつけずに、まずは矯正治療を専門とする歯科医師に相談することが重要です。
精密検査の結果をもとに、自分の歯並びの状態やライフスタイルに最も合った治療法を提案してもらいましょう。
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